町田のフリー台本/簪夜帳

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〔語り台本〕取る手と解く手。

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https://machidoku.hatenablog.com/entry/2021/06/30/135935

 

基本自由です

 

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〔取る手と解く手。〕

 

命を投げる瞬間を見た。

 

人気のない無人駅の錆びれた駅のホームで電車を待っていた。

1人の男性(女性)が話しかけてきた。

 

-少し話相手になってくれないか?

ほんの少しだけ、これから通過する列車が来るまでの間だけ。

 

錆びれたホームで1人だった、時刻は深夜、

乗る電車が最終列車だった。

それまで時間もあった。

私は話を聞く事にした。

 

-こんな時間に話しかけられて怖い思いをさせてしまってすまない

相手になってくれてありがとう

 

10分ほどだっただろうか、

彼は(彼女は)どこか悲しげな雰囲気で、

淡々と話をしていた。

 

-1つ頼まれてくれないか、これを預けたい。

 

手渡された1つの手紙

表はまだ見ないでと裏返しで預けられた。

私がこの手紙を知るまでには時間はかからなかった。

 

-そろそろ通過の列車がくる

相手を快く受けてくれてありがとう

 

彼は(彼女は)手を差し出した。

いいえ、と、私はその手を取り

軽い握手をした。

 

その手を解くと同時に通過の列車が来た。

そして、彼は(彼女は)は列車に向かった。

鈍い音と何かが砕ける音がした。

列車の急ブレーキの音が辺りに響いた。

 

預けられた手紙の表に書かれた文字は

この全てを物語っていた。

 

私が手を離さなければ彼は(彼女は)

命を投げる事を諦めていただろうか。

私がもう一言、言葉をかけていたら

この手紙を返せただろうか。

彼は(彼女は)私に何を委ねたのだろうか。

 

私は人を生かすことが出来なかった。

私はこんなにも無力な人間だった。