町田のフリー台本/簪夜帳

フリー台本につき、配信アプリYouTube等ご自由にどうぞ。

白く揺蕩う(声劇、セリフ、掛け合い)

町田の台本を手に取って頂きありがとうございます。

 

この台本は、フリーとさせて頂いてます。

投稿等の使用は不可でしたが、

TwitterのDMへ使用の報告と、投稿へのリンク記載をして頂けたら可という事にしました。

 

質問などは専用Twitterから受け付けています。

使用報告はこちらまで↓

Twitter→[@machida_daihon]

 

無断転載等は言うまでもないと思いますが

禁止です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「」→女    

『』→少女  

 その他→ナレーション

 

夜が深く。

髪を解く女は言う。

 

「またいらして下さったのね。もう来ないかと思ってましたから。

では、今晩は何を致しましょう。」

 

『絵を描きたい。貴女の絵を。』

 

白く揺蕩う髪の少女は一言呟いた。

月明かりで消えてしまいそうなほど白く、

華奢なその体には絵描きの道具を抱えている。

肩を震わせて涙ぐんだ目をして、その少女は女をじっと見つめた。

 

「えぇ、もちろん良いですとも。

私は何処に座ればいいかしら絵描きさん?」

 

『ここがいい。貴女の後ろ姿も横顔も全部を描きたい。

とても時間がかかるけど。』

 

「どんなに時間がかかっても構いませんよ

ゆっくりゆっくり、お書きくださいな、

絵描きさん。」

 

純白の絵描きの少女は、艶やかな女をじっくりとみて、カンバスにゆっくり描いていく。

少女の手のひらに油絵具が彩っていく。

時間の流れは穏やかに感じた。

女は時より少女の顔を見ては微笑んだ。

 

『どうかしましたか?顔に絵の具でもついてますか?』

 

「いいえ、ただ、絵描きさんがとても綺麗な目で私を見つめるものだから、ついその目を見たくなってしまって。

動いてしまってごめんなさいね。絵描きさん。」

 

絵描きの少女は、頬を赤らめてカンバスに隠れた。

 

『全然。そんな事ないですよ。

ずっと同じ姿勢は大変ですから、少し顔を向けても大丈夫です。』

 

照れた様に絵描きの少女は話した。

 

ゆっくりゆっくり女を描いては、たわいもない話をした。

それは夜明け前の薄明るくなるまで。

 

『まだ途中だけど、今日はここまでで終わりにします。また描きに来ますね。

長い時間ありがとうございます。』

 

「いいえ、とても楽しかったですよ。

絵描きさん、またいらして下さいね。

ここでお待ちしてますから。」

 

少女は夜が明け切る前に部屋を後にする。

どんなに熱中していても、いつも同じ時間に絵を終わる。

 

「ねぇ、絵描きさん?どうしていつも同じ時間にお帰りになってしまうの?

私はいつまでもここに居るのに。」

 

『抜け出してきてるから、夜が明け切ってしまうと出られなくなってしまうから。

そうしたらもう貴女を書く事、会うことすら出来なくなってしまう。

だから、同じ時間には帰らないと行けない。

時間の許す限り貴女を描く為に。』

 

長い月日を共にしてきて初めての話。

女は少し心苦しくなった。

小さな細い体、消え入りそうな白い肌

華奢な少女。

この少女が一人でいる所を考えただけ、それだけだったのに。

自分の事のように苦しくなった。

 

気のせいではない苦しさで動けなくなっていた

女は一人。ここに一人。

今日も少女がやってくるのに、女の体はゆうことを聞かなかった。

待てど待てど、体は鉛のように重く不自由で、

その日少女は来なかった。

 

何日の間だったろうか、久しぶりに少女が来た。

 

「しばらくぶりですね、絵描きさん。

どうかなさったの?」

 

『えっと、なんでもないです。

ちょっと来れなかっただけなので。』

 

言葉を濁しつつ絵を描き始める。

この日は沈黙が続いた。

小さな風の音が聞こえてくるほどの静寂。

楽しい会話の裏返しなのか、少女は少し悲しそうな顔をしていた。

 

恐れていた事がおきた。

それは女が一番に恐れている事。

 

視界が歪む、体は崩れるように力が抜けた。

 

『どうしたのですか?!しっかり!!』

 

少女が声を張り上げる。

 

女は病だった。

一人隔離され家族と離れていた。

夫は事故で亡くし、娘は孤児院へ預け、

もしも病が治れば迎えに行くつもりでいた。

その願いは叶わなかった。

 

日に日に弱っていく体は、ゆうことを聞いてくれなくなっていく。

体感する、実感する死の恐怖。

そんな中少女が現れたのだ。

自分に良く似た少女だった。

 

「ごめんなさいね、絵描きさん。

私はもう駄目みたいなの。

もう、立つことも、起き上がることすらままならない。

絵描きさんの絵を完成させたかったのに。

本当に本当にごめんなさいね。

小さな絵描きさん。」

 

『そんな!もう駄目だなんて!』

 

少女は必死に声をかけ続けた。

何度も何度も励ました。

 

『一つだけ、一つだけ聞いてください。

ずっと嘘をついていました。

本当は。本当は。』

 

少女は一つ話を始めた。

 

『絵は完成しているんです。

とうの昔に。

ただ、貴女に会いたくてここへ来ていました。

だから、絵の事は心配しないでください。

ずっと黙っててごめんなさい。』

 

「そうだったのね。そう。

なら良かった。ありがとう。」

 

『それから、もう一つ

今日は帰りません。

ずっと貴女のそばに居ます。』

 

「そうなの、嬉しいわ。

でも、きっと帰ってしまうでしょうね。」

 

それからいつもの様に夜明け前まで話した

とても楽しい時間だった。

たわいのないささやかな話だった。

 

「あら、もう夜明け前よ。

絵描きさん。帰らないと。」

 

『帰りません。だって帰る所はここだから。』

 

少女は不思議な事を口にした。

いつも帰る場所は帰る場所では無いと、

借りの場所なのだと言った。

 

「どういうことなの?教えて絵描きさん。」

 

『ずっと会いたかった。

窓から見える姿をずっと見てた。

何度も門前払いされたけど、絵描きになったら入れるって聞いたから絵描きになった。

貴女に会うために。』

 

華奢な体と声は震えていた。

 

「どうゆうこと?絵描きさんは絵描きさんでしょう?何故なの?」

 

『私の母はずっと前私の小さい頃に病気になりました。

父は交通事故でその場で亡くなりました。

兄妹は居ません。父、母と3人でした。

父を亡くし、母は病。私は孤児院へ預けられました。』

 

よく知っている話。

それもそのハズ、この話は女の話。

だけど、なぜこの絵描きの少女は話した事もないこの話を知っているのか。女は少女の話を聞き続けた。

 

『私は母の顔をよく覚えていませんでした。ぼんやりと覚えてて、10歳になった時この話を聞きました。

それで母の居る場所を聞きました。でも門前払いをされました。

絵描きになれば入れると聞いたので絵描きになりました。

それは全部貴女の為に。』

 

「絵描きさん。

貴方は、あの子なの?私の娘……。

そうなのね…?」

 

女は恐る恐る口にした。

物心つく前の小さな我が子を孤児院へ預けたあの日の苦しみ。

病で鉛のようになっていく体。

死の恐怖に怯える日々。

そんな中幸せな時間をくれた少女。

 

少女は綺麗な目に涙でいっぱいにして言った

 

『そうよ。私よ。お母さん。

ずっとずっと待ち遠しかった。

年齢的な門前払い、その次は面会拒否だった。

どうすれば会えるか問いただしたら、絵描きならとそう言われたの、だから私頑張ったの。

ずっとずっと会いたかった。お母さん。』

 

「ずっとずっと待たせてしまったわ。

迎えに行くと約束したのに。

約束すらも忘れて、面会拒否だなんて…。

なんて、なんて酷い事を!

良く頑張ったわね。偉いわ。私の可愛い一人娘。もっと一緒に居たかった。」

 

『お母さん!辞めて。ずっと一緒に居て。

もうどこにも行かないで。お願いよ。』

 

「そうね、今日はずっと一緒よ。

素敵な絵描きさんになったのね、私の可愛い子

幸せな時間をありがとう。

これからも沢山の人を書くのよ。沢山の人を幸せにしてあげるの。

約束よ。」

 

女は静かに言った後にゆっくりと目を閉じた。

少女は何度も声をかけた。

白く揺蕩う髪の少女は綺麗な母を目の前に泣き崩れた。

それはあまりにも美しい姿で。

 

数年後

 

『今日はここまでで終わりにしますね。

お疲れ様でした。ずっと同じ姿勢は大変でしたでしょう。ゆっくりお休みください。

それでは。』

 

「待ってちょうだい。

今日はここにお泊まりになってもいいのよ?」

 

『ありがとうございます。ですが、家族が待ってますので。

では、また同じ時間にお伺いしますね。』

 

「おかえりなさい。

今日も絵の具が頬についてるよお疲れ様だね。」

 

『そんなに沢山ついてるかしら。

今日は気をつけたつもりなのよ?

ただいま。お母さん。』